Ⅰ.はじめに

建設業では工事が長期間にわたることが多く、「いつ売上計上するか」が大きな問題になります。売上を認識する基準として代表的なものが「工事完成基準」と「工事進行基準」です。これらは利益のタイミングだけでなく、税金や資金繰り、業績評価にも影響するため、事業運営において重要な観点となります。

本記事では、それぞれの特徴やメリット・デメリットを整理して解説します。

 

Ⅱ.工事完成基準について

工事完成基準とは、工事が完成し、引き渡しが完了した時点で売上と原価を計上する方法のことです。日本では長い間、中小規模の建設業ではこの方法が一般的でした。

 

【工事完成基準のメリット】

  • 引き渡しまで利益・所得を繰り延べられる
  • 会計処理がシンプル

 

【工事完成基準のデメリット】

  • 工事の途中で赤字になっていても気づきにくい
  • 収益の計上を分散できない

 

Ⅲ.工事進行基準について

工事進行基準とは、工事の進捗に応じて売上と原価を分割して計上する方法です。この方法は、その工事にも無条件で適用できるわけではなく、会計上のルールとして「成果の確実性」が認められること、また法人税法上の特定の要件を満たす場合に強制適用されることがあります。

 

【会計上のルール】

会計上、工事進行基準を適用するためには、その工事契約について「成果の確実性」が認められる必要があります。以下の3つの要素を満たせない場合、工事進行基準を適用できず、工事完成基準を用いることになります。

1.工事収益総額:契約によって定められた請負金額など、受け取る対価の総額が確実に見積もれること。

2.工事原価総額:その工事を完成させるために必要となる材料費、労務費、外注費などの原価の総額が合理的に見積もれること。

3.決算日における工事進捗度:決算日までに、工事がどの程度進んでいるかを客観的かつ合理的に測定できること。

 

【法人税法のルール】

法人税法では、特定の工事について工事進行基準の適用を強制しています。これを「長期大規模工事」と呼び、以下のすべての要件を満たすものは、企業の任意選択ではなく、必ず工事進行基準を適用する必要があります。

 

1.期間:工事の着手日から引き渡し期日までの期間が1年以上であること。

2.請負金額:請負対価の額が10億円以上であること。

3.支払条件:請負対価の額の2分の1以上が、引き渡し期日から1年を経過する日より後に支払われる契約でないこと。

 

【工事進行基準のメリット】

  • 進捗に応じた損益をタイムリーに把握できるため、赤字の早期発見や、他の黒字事業と相殺することで節税効果につながる可能性もある
  • 各事業年度の損益を実態に即して報告することができるため、利害関係者に経営状況を説明しやすい

 

【工事進行基準のデメリット】

  • 工事完成基準に対して客観性やシンプルさで劣っているため、顧客への入念な説明が必要になる
  • 会計処理が複雑で事務負担が大きい
  • 正確な見積もりが難しく、見積もり次第では財務諸表の信頼性が低下する可能性がある

 

Ⅳ.まとめ

会計処理がシンプルでわかりやすい反面、一度に収益と費用が計上されるというデメリットがある工事完成基準と、進捗に応じた損益をタイムリーに把握でき、様々な効果が期待できる一方で、現段階ではまだ曖昧さや課題点を残している工事進行基準。それぞれの特徴を正確に理解し、工事内容に応じて使い分けることが大切です。

 

Ⅴ.参考文献

・建設会計ラボ. “ややこしい2つの基準…「工事進行基準」と「工事完成基準」の違い” . 2025 https://kensetsu-kaikei.com/lab/construction-cost/glossary02

 

・マネーフォワードクラウド.“工事完成基準とは?メリット・デメリットまとめ”. 2025 https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/75567/

 

・PROACTIVE.“工事進行基準とは?適用要件や計算方法、新収益認識基準との関係をわかりやすく解説”. 2025 https://proactive.jp/resources/columns/construction-progress-standard/